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​教育方針

言語習得と言語学習は、密接に関連しています。言語教育では、習得と学習を別けて考え、前者は、自然な環境の中で幼少から意味ある会話を聞き、やがてそれに参加し発達させていく母語に対して、後者は、意識して文法や単語を覚えながら発達させていく外国語です。

 

2020年に小学校での英語教育が必修化しました。これまで早期英語教育に対する賛成派と反対派が様々な議論を行なってきましたが、反対派の主な主張は、母語への悪影響です。日本語がしっかりできるようになってからでないと両言語とも中途半端にしか発達しない懸念があります。

 

国立情報学研究所の新井紀子教授(小平市出身)は、2018年出版の「AI VS. 教科書が読めない子どもたち」の中で、全国2万5千人の中高生の基礎的読解力を調査し、多くの学生が教科書の文章を正確に読めない結果に警鐘を鳴らしています。国語力は、他の教科にも多大に影響を及ぼす、言わば勉強の要です。

 

一方で、幼少時からの英語教育を始める良さは、「(これから中高6年間勉強する)英語に抵抗をなくす」「異文化に親しむ」「メタ言語能力を養う」に集約できると思います。本校では、最後の「言語を意識化させる」メタ言語能力養成を重要視し、両言語、日本語と英語を連携させながら伸ばしていくことを目指しています。

 

小学校では、夏休みに自由研究や読書感想文を書くことがありますが、そのための文章力を体系的に学ぶことはありません。しかし、大学入試に小論文を課しているところも多くあります。同時に、英検(準2級以上)合格者に対しての大学入試優遇制度を取る大学も増えています。

 

本校では、英語コースと並行して選択国語コースを取る受講生は、日本語の読解力と表現力を養うことができます。具体的には、レベルに応じた読み物を読み、講師が確認のために質問したり一緒に議論をしたりします。意義ある議論をするために、受講生は読み物を十分に理解し、明確な問いを考える必要があります。そして、作文を書くことで学習言語運用能力や論理的思考を高めていきます。

本校の特色

「英語と国語の連携言語教育」

英語の授業では通常日本語の媒介語が使われ、私たちは、頭の中でまずは日本語で考えてから英語に変換するという認知作業をよくやっています。その結果、日本語では主語を省略することが多いので、例えば「Hearing don’t like very much(聞き取りはあまり好きではない)」などという間違いをします。他方で、国民的作家である夏目漱石や村上春樹の文章は、英語の影響を受けているとよく言われます。私たちの学習経験からも直感的に日本語を通して英語を学ぶ過程でお互いに何らかの影響を与えているのは理解できるのではないでしょうか。

 

バイリンガル研究で著名なカミンズ(James Cummins)は、第一言語(母語)と第二言語が基底のところで共通し、相互に関係しながら発達するという「二言語相互依存説」を提唱しています。私たちが英語を学習する場合、言語体系が懸け離れている二言語でも深層部分で言語能力が共有される可能性を示唆しています。

 

話は変わりますが、文科省策定の「英語が使える日本人」育成のための行動計画の中に以下の文言があります。

 

・英語によるコミュニケーション能力の育成のため、すべての知的活動の基盤となる国語を適切に表現し    正確に理解する能力を育成する。

 

・英語の習得は母語である国語の能力が大きくかかわるものであり、英語によるコミュニケーションの育成のためには、その基礎として、国語を適切に表現し正確に理解する能力を育成するとともに、伝え合う力を高めることが必要である。

 

以上の内容から、国語と英語が根底で能力を共有するのなら、二言語を連携させて同時に二つの言語能力育成を行うのが有効的だと推測できます。

 

しかし、現在、どんな国語力を学校で培っているのでしょうか。漢字を覚えたり色々な文学小説に触れたりすることが多いですが、具体的な国語力となると判然とせず、回答に窮します。

 

そこで、本校では、英語と国語を有機的につなげ、二言語が相互的且つ効果的に伸長するような言語教育を目指します。具体的には、最初に両言語に必要な言語技術の指導を行い、次にことばの気づきを促す読書活動でメタ言語能力を養い、最後に社会問題に関する読み物を能動的に読み、エッセイを書いて高い理解力と表現力を培います。

 

本校の「小中高一貫の国語カリキュラム」

 

小学生の「言語技術の習得」

理由を述べてから意見を表明する日本語とは反対に、まず意見を表明して理由を述べる英語、起承転結の日本語に対して、序文、本文、結論の英語など、流れや展開が異なる両言語を自由に操れるように、アメリカを始め、先進国で行われている国語教育の一環「言語技術(英語でLanguage Arts)」という言葉を操るためのスキル技術を体型的に学びます。物語文、説明文、報告文、広告文、意見文、感想文など、様々な文章の具体的な書き方から要約技術、文章の分析と解釈、批判的な検討技術までの基礎技術を勉強し、しっかりとした言語力の基盤を作ります。

 

中学生の「メタ言語能力の育成」

「ことばを知っている」と「ことばについて知っている」の二つには、大きな違いがあります。後者を明示的に学ぶことで言語を意識化させます。主語・動詞の基本文型の英語とは反対の日本語の文型、数えられる・数えられない名詞と数に敏感な英語に対して、数詞が豊富な日本語など、二言語の差異を認識するように、「世界の言語」「複合語」「多義語」といったトピックの読み物を読みます。話し合いなどを通して理解を深め、感想文や説明文を書きます。一連の活動を通して、演繹的に、また時には帰納的に様々な差異に気づき、客観的に言語を分析することを含むメタ言語能力の育成を行います。

 

高校生の「表現力の涵養」

最後の段階として、「SGDs」「言語とアイデンティティー」「コロナ禍での問題」など社会問題に関する読み物を主体的に読みます。前もって読み込み理解を深め、教師や他の受講生に対しての適切な質問を考えるなど、予習を行います。授業では活発な議論を行います。その中で「言い換え」をすることで理解を示したり的を得た質問をすることで一緒に深く堀り下げたりします。その後、エッセイを書くことで、頭の中で議論をもう一度整理し言葉を選びながらしっかりした構成で論理的に論述していきます。

 

このように、「言語技術の習得」→「メタ言語能力の育成」→「表現力の涵養」と両言語を往還しながらお互いに感化させ、段階的に分析力、批判力、論理力、思考力といった総合的な言語力を伸ばしていきます。語彙や漢字も徐々に拡充していきながらじっくりと国語力を養うことで、1年に1度しか書かない自由研究や読書感想文、また大学入試で課される小論文に十分に対応できる書く力が備わるのではないでしょうか。基底で共有される国語力の強化が英語学習の促進にもつながります。

 

最後に、皆さんに一つ質問を投げかけたいと思います。小中高を通して10年間も行う英語学習の意義は、何なのでしょうか。「将来、英語を使う仕事に就きたいから」「異文化交流を楽しみたいから」など、人それぞれだと思います。しかし、好む好まざるに関わらず、私たちは、例外なく全員、英語を勉強します。私たち全員に共通するのは、英語を勉強することによって、母語を対象化し外から改めて見つめる機会を得ることではないでしょうか。その千載一遇の機会を十二分に活用し、英語力だけでなく国語力の育成も目指します。

 

 

「外国語を知らない人は自分の言語のことも何も知らないのである」ドイツの文豪ゲーテ

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