「人生100年時代」とも言われる現代。よく耳目にする表現の由来は、ご存知の方も多いと思いますが、リンダ・グラットンとアンドリュー・スコット共著の2016年刊行「ライフシフト 100年時代の人生戦略(原題:100-year life: living and working in an age of longevity)」から。本著によると、2007年生まれの2人に1人が100歳以上生きる時代が到来するとのこと。そこで、筆者が従来の3ステージ(教育、仕事、老後)から労働時間がマルチステージへと移行すると述べています。個人的には、現在の日本人平均寿命が男女それぞれ87.7歳と81.6歳なので、若干先走りすぎのような気もしますが、「人生100年時代」はすぐそこまで来ています。そう遠くない近未来の教育とは。一言で言うと一生続けるものだということでしょう。言語学習は、とりわけそうだと思いませんか。
私事で恐縮ですが、1年延期後開催された東京オリンピック前には高齢者の方が某英語検定試験の2次面接試験にチラホラ受験に来られていました。オリンピック運営委員会が通訳ボランティアを大規模に募集していたことが彼らの動機づけになったと推測しています。残念ながら東京オリンピックは無観客で開催され、多くの方が社会貢献をする機会もなく、現在は高齢者の受験生がめっきり減ってしまいました。それでも、いくつになっても勉強する姿勢には頭が下がる思いです。私がその年齢になった時に果たして同じように勉強しているかなと考えてしまいます。
さて、話は変わりますが、本校では幼児から社会人の方まで幅広い受講生が在籍しています。動機づけ(モチベーション)に関しては、英語学習に「いつからが最適か」というのはないと感じています。なぜなら、動機づけは、外国語学習に必要な条件の一つであり、高い時こそ最適だからです。言語習得理論では、赤ちゃんが生後1年程で母語の「音」を聞き分けられるようになり、その後1年程で発音に必要な口周りの筋肉が発達すると言われています。赤ちゃんは、海外に生後2年間身を置けば、発音に関してはどんな外国語でもネイティブ並みになることを意味します。ネイティブ同等というのは、具体的にどんな状態でしょうか。例えば、電話で誰かと英語を話しているとします。その際、相手が日本人だと気づかないレベルです。確かに、英語がネイティブのような発音で流暢に話せると羨ましいですよね。
しかし、外国語習得は、発音だけでなく、他にも語彙・文法学習を始め、読む・聞く・書く・話すの4技能をバランス良く向上させていく必要があります。その過程は、ご存知の通り、長い道のりです。しかも、スポーツと同じように、暫く勉強しないと忘れてしまいます。最終的には継続力―コツコツと毎日勉強するーが肝になります。その原動力になるのがモチベーションです。
動機づけ、あるいは英語で言うモチベーションは、「あの人は、モチベが高い・低い」とよく表現されます。しかし、動機づけは、決して高いまま、あるいは低いままではなく、常に揺れ動く精神状態なのです。皆さん、試験を前に動機づけが高くなったり試験結果に低くなったりした経験はないでしょうか。あるいは、ちょっとしたきっかけ、例えば、先生に「最近英語が上手になったね」と褒められただけでやる気がぐんと上がることもありませんか。同時に、英語学習の集中力も急激に上がります。逆も然りで、頑張って勉強したのに試験の結果が悪く、やる気が削がれることもあります。
このように、モチベーションというのは、学習者の精神状態で、周りの環境やちょっとした言動で変動するものです。しかし、長い英語学習期間、そのモチベーションをいかに高いまま維持できるかが、英語学習の成功の鍵を握っていると言っても過言ではありません。
ところで、書店に行けば無数の英語学参書があり、インターネット上でもCNN等、視聴覚教材も無料で手に入る現代。極論を言えば、やる気さえあれば英語学習はいつでもどこでも可能な時代です。しかし、実際一人で4技能をバランス良く伸ばしていくのは、困難極まりないことです。
そこで、やる気がある人は、本校を含めて英語教室に勉強しに来るのですが、教師として各受講生のモチベーションが上がるように、少なくとも下げないように、気をつけながら教えています。具体的には、受講生自身に毎月の目標を立てさせて勉強に取り組むようにさせたりしています。一番大事なのは、現時点の英語力を正確に評価し、何が足りないか、次のレベルにどのようにして到達できるか的確なアドバイスをすることだと思っています。そうすることによって、受講生は、効果的・効率的に英語習熟度を上げ、モチベーションを少なくとも下げることなく、英語学習を継続できると考えています。自律学習と結びつきが強い英語学習。最終的に独り立ちできるように、自律性養成も意識しながら指導しています。
次回は、今年11月からいよいよ始まる「中学校及び都立高校入試スピーキングテスト」について書きたいと思います。
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