今回は、本校の英検対策コースについて書きたいと思います。まず、英検の合格率を含む各級レベルをご覧ください。合格点と合格率に関しては、日本英語検定協会から正式に発表されていないので、複数のソースからの推測です。
級 | レベル | 語彙数 | 合格点 | 合格率 |
1級 | 大学上級程度 | 10,000~15,000 | 70% | 12% |
準1級 | 大学中級程度 | 7,500~9,000 | 70% | 16% |
2級 | 高校卒業程度 | 3,800~51,00 | 65% | 25% |
準2級 | 高校中級程度 | 2,600~3,600 | 65% | 37% |
3級 | 中学卒業程度 | 1,250~2,100 | 64% | 50% |
4級 | 中学中級程度 | 600~1,300 | 63% | 70% |
5級 | 中学初級程度 | 300~600 | 62% | 80% |
ご覧の通り、級が上がるにごとに難易度が高くなっています。巷の短期集中英検対策コースの場合、過去問と予想問を徹底的に解かせて合格に漕ぎ着かせるところもあるようですが、級が上がるに連れて、いかんせん苦しくなってきます。理由は、あやふやな単語暗記と中途半端な文法理解から英語力がしっかり身についていないからです。いかに文法を習得しながら段階的に語彙を増やしていくかが、肝になると思います。
ところで、前回、英検受験を富士山登山に譬えて説明しました。山頂は、こんな感じです。
Which is a bigger threat to society, violent crime or cybercrime?
(暴力犯罪とサイバー犯罪、どちらが社会にとってより脅威ですか)
これは、実際の英検1級二次面接試験の質問です。5つのトピックから1つ選び、わずか1分の準備時間で考えをまとめ、面接官2名(日本人と英語ネイティブ)の前で2分間のスピーチをしなければなりません。スピーチ後に質疑応答もあります。
これって日本語でもかなり難しいですよね。普段からニュースを見たり幅広いトピックの本を読んだりして知力を養っておく必要があります。我々の母語、日本語もこのようにしてトピックに関連した語彙が身についていくものです。英語も同じように、登山し始める麓から段階的に語彙を増やし文法を習得していく、つまり着実に英語力を身につけていく必要があります。
そのために何が必要なのでしょうか。次の3つを少し深く考えていただきたいと思います。
・英検対策コースでできることは、何か。
・教師としてしなければならないことは、何か。
・受講生としてしなければならないことは、何か。
第一に、本校のコース受講生には、「たかが週1、されど週1」コースそのものを理解していただく必要があります。基本方針として、文法は学校で学び、もしくは未習の文法項目を含む級を受験する場合、まずは自宅で参考書をじっくり読んで理解を試みてもらいます。一方で、十分な文法理解なくしては、語彙拡充はおろか、正しい英文も書けないし話せません。ですので、授業では4技能を絡めた実践的な英語のやり取りを軸に、文法理解及び習得が促進するように、適宜ピンポイントで分かりやすく教えていきます。
ピンポイントとは。こんな感じです。例えば、「不定詞」は、最も重要且つ難解な文法単元の一つとされています。が、そもそもどうして「不定」というかご存知ですか。主語が Iなら be動詞は、am(現在形)か was(過去形)ですよね。Sheなら一般動詞には likesと語尾にsが付きます。これらを「定形動詞」と呼びます。他方、主語が何であろうと形が変わらない使い方の動詞を「不定形動詞」と呼びます。このように、動詞の形は、定形動詞と不定形動詞(不定詞、過去分詞、現在分詞、動名詞)に大別されます。
また、例えば、動詞 stopの直後の目的語は、不定詞 to smokeも動名詞 smokingも可能ですが、enjoyの場合は、動名詞のみ可能です。一方で、wantの場合は、不定詞のみ可能ですよね。どの動詞が動名詞を目的語、もしくは不定詞を目的語にするか、全て暗記しませんでしたか。どちらを目的語にするかは、実はですね、意味によって判別できるんです。これからすることには、不定詞を使用する一方で、もうしていること、あるいは今していることには、動名詞を使用します。次の例文を見てください。
I want to read Harry Potter this weekend.
I enjoy reading Harry Potter now.
ここまで理解すれば、stop to smokeとstop smokingの意味の違いを説明しなくても大丈夫ですよね。学校では「不定詞だけを目的語にする動詞リスト」というものを渡されて、丸暗記した人も多いかもしれません。しかし、意味付けをすることによって、忘れにくくなります。このようなことを必要に応じて、ピンポイントで教えていきます。実際に不定詞を体系的に教えるとなると数コマは必要になります。学校で習う文法をわざわざ授業でまたやるのはもったいないですよね。大事なのは、学校で習った文法知識を話すとき、書くときに使えるように、授業で運用能力を高める練習をすることです。それが、「たかが週1、されど週1」コースを最大限に活用することになります。
次に、「4技能を絡めた実践的な授業」について詳述する前に、第二の「教師としてしなければならないこと」について書きたいと思います。それは、教師は授業中、学生に「分かりましたか」と訊いてはならないということです。なぜなら、そう訊かれた学生は、十中八九「はい、分かりました」と答えるからです。先程「不定詞」のピンポイントレッスンを一例として書きましたが、私が今この場で当該文法項目を一通り説明したとします。その際、「分かりましたか」と尋ねられたら、あなたは何と答えますか。「はい、分かりました」「うーん、まあまあ分かりました」「全然わかりません」といった返答があると思います。しかし、「分かったつもりで、実は全く分かってなかった」ということが、往々にしてあるのです。自分の理解度を客観的に判断するのは、非常に難しいことです。そして、何よりも大事なのは、文法を習得したかどうかなのです。ですから、「教師としてしなければならない」ことは、授業中の英語のやり取りを通して、一人一人の英語習熟度を測り、それぞれの能力を最大限に引き出す支援をすることだと考えています。
では、その支援となる「4技能を絡めた実践的な授業」を分かりやすく描写しましょう。以下、学生に3級の過去問を解かせながらの会話です。
A: Jane, how does this dress look on me?
B: Really nice. Look in the( )over there.
1. center 2. counter 3. cloud 4. mirror
先生:OK, why don’t you read this dialogue aloud with your answer choice?
学生:Jane, how does this dress look on me? Really nice. Look in the COUNTER over there.
先生:Counter? Where can you see a counter?
学生:Where?
先生:Well, for example, you may see a counter in a restaurant or a nice kitchen.
学生:What is the meaning of counter?
先生:レストランとかにある長いテーブル。たくさんの人が一列に座るでしょう。
学生:I see.
先生:What about center?
学生:真ん中。
先生:Where can you see clouds?
学生:Sky.
先生:Right, in the sky.
学生:Oh, so, look in the MIRROR over there!
先生:Exactly! Do you often look yourself in the mirror?
学生:Sometimes.
先生:When do you look yourself in the mirror?
学生:When I buy new clothes.
先生:Right. Perhaps, also when I wake up in the morning. I wanna check if I have bed hair or not.
学生:I see.
先生:By the way, Ken, your shirt looks very good on you.
学生:Oh, thank you.
先生:In fact, I bought this pair of jeans last weekend. How does the jeans look on me?
学生:Looking great!
先生:Thanks! What else can you comment on the jeans?
学生:Umm, not bad. Wonderful. Cool.
と、発音確認からスタートし、一つの過去問を題材して丁々発止の会話が繰り広げられます。えっ、3級レベルでこんなことができるの?と思われるかもしれませんが、What is the meaning of XX?という便利な表現は、コース初期に導入します。また、文中にもあるように、適宜日本語も使用すれば中学卒業レベルで可能な英会話です。最初は難しいかもしれませんが、徐々に慣れていきます。徐々に着実に、です。
英検の良さは、各レベルの語彙と文法をふんだんに使った英文が、満遍なく出てくることです。例えば、空欄補充の問題は、選択肢全て既習語(中学卒業レベル)ですし、会話文自体もそっくりそのまま書ける、いや書けるべき英語なのです。英文全てを理解せず、たまたま正解選択肢を選び、正答となることもあります。他方で、対話をしながら辿り着いた正答とは、身につく英語力に雲泥の差があると思いませんか。
さらに、英検の読み物では、取り扱っているテーマについて英語で話したり書いたりします。一例を挙げると、リサイクルをテーマにした読み物なら、Do you recycle something?という質問から会話が始まり、What do you think of SDGs?という質問に対して、簡単な意見表明ができるはずです。英語のやり取りの中で、学生は、当然日本語を直訳したような不自然な英語を発話することもあります。そこは、貴重な学びの瞬間です。教師は、「◯◯の方が自然な英語らしいよ」とアドバイスをすることができます。比較的低いレベルからこのような4技能を絡めた授業を行うことで、少しずつ、そして着実に運用能力が高まり、本物の英語力が身につくのです。
最後に、「受講生としてしなければならないこと」について書きます。まあ、ここまで書いてきたら受講生がしなければならないことは、自ずと決まってきますよね。授業に積極的に参加できるように、例えば、単なる単語暗記でなく、文でどのように使われているか注意を払いながら覚える、読み物の宿題では、先生とのやり取りを想定して、頭の中でエア会話をしながら読むといったことです。活発な言語活動に身をおくことで、どうやったら英語が上手になるか自ら考えながら予習復習をするようになります。英語学習は、ご存知のように、単語暗記や宿題など1人で行うことに圧倒的に時間を費やします。その時間に、このようなメリハリをつけた勉強を実践することで、自学自習の習慣も身につきます。
ここまで長々と綴ってきましたが、コース概要の理解、教師と受講生それぞれの役割、三位一体で英検対策コースは、うまく機能すると思っています。毎回1時間程の授業は、教師と受講生、または受講生間で様々な認知活動が繰り広げられます。あやふやな単語暗記と中途半端な文法理解でなく、一つ一つの単語に目が行くようになり、文法を理解しながら語彙を増やしていきます。このような言語活動の積み重ねが、着実な英語力向上となり、山の頂上に導いてくれます。
コミュニケーション重視の英語と言われて久しいですが、1クラスに数十名もいる学校の教室では、なかなか運用能力を高める授業を行うのは、難しいのではないでしょうか。また、人生100年時代となりつつある現代、英語を学び直したいという方も増えてきています。本校の英検対策コースは、学校でできないことを補完したり、あるいは社会人のニーズを満たしたりすることができると考えています。そして私は、頂上までの長い道のり、ガイドを務めさせていただけたらと思っています。
次回は、実践的翻訳入門コースについて書きたいと思います。
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